こんにちは。群馬県で非住宅木造建築を手がけている「大規模木造建築ぐんま」です。
最近、土地活用や観光事業への参入を検討されている方から、「群馬県で一棟貸しの宿を建てたい」「空いている土地に木造の宿泊施設を建てられないか」といったご相談をいただくことがあります。
草津・伊香保・水上・四万などの温泉地に加え、赤城山や榛名山周辺のアウトドア需要、高崎・前橋周辺のビジネス利用など、群馬県には地域ごとに異なる宿泊ニーズがあります。群馬県が公表している令和5年(2023年)の観光統計でも、県内の延べ宿泊者数は約975万人泊、外国人延べ宿泊者数は約43万人泊となっています。
一方で、宿泊需要があるからといって、建物を建てればすぐに安定した経営ができるわけではありません。実際の計画では、建物のデザイン以上に、営業方法、土地の法規制、建築費、清掃・管理体制を最初に整理することが重要です。
ここでは、群馬県で木造の民泊施設や一棟貸し宿を計画するときに、事前に押さえておきたい建築費や土地選び、許認可、間取り、収支計画について、現場の視点からお伝えします。
目次
最初に決めたいのは建物よりも営業方法です
宿泊施設を計画する際、最初に確認したいのが「どの制度で営業するか」です。一般に民泊と呼ばれている施設でも、住宅宿泊事業法に基づく届出で運営する方法と、旅館業法に基づく簡易宿所などの許可を取得する方法では、建物に求められる条件が変わります。
住宅宿泊事業は年間180日以内です
住宅宿泊事業法による営業は、宿泊させる日数が年間180日以内に制限されています。さらに、届出の対象になる建物は、「台所・浴室・便所・洗面設備」を備え、実際に生活の本拠として使われている、入居者を募集している、または所有者などが随時居住する家屋のいずれかでなければなりません。
つまり、最初から宿泊専用として新築する建物が、必ず住宅宿泊事業法上の「住宅」に該当するとは限りません。新築で一棟貸し施設を計画するときは、住宅宿泊事業の届出で進められるのか、旅館業の許可が必要なのかを、設計前に行政へ確認する必要があります。
ここを曖昧にしたまま住宅仕様で設計を進め、後から簡易宿所へ変更すると、避難経路、間仕切り、防火設備、消防用設備などの追加工事が発生することがあります。図面を作り直すだけでなく、窓や廊下の位置まで変更となれば、建築費と開業時期の両方に影響します。
通年営業を目指すなら簡易宿所も検討します
年間を通じて営業し、宿泊売上を事業の中心に据える場合は、旅館業法に基づく簡易宿所営業などが現実的です。10人未満を宿泊させる簡易宿所では、客室延床面積について宿泊者1人当たり3.3平方メートル以上という基準がありますが、これだけ満たせば営業できるわけではありません。
用途地域、建築基準法、消防法、換気・採光、給排水、衛生設備、玄関や管理体制などを確認する必要があります。施設の所在地によって相談窓口や取り扱いが異なるため、管轄する保健所、建築行政窓口、消防署へ事前に相談します。
現場でよくある失敗は、「予約サイトに掲載できる建物をつくること」だけを考え、許可を取得できる建物かどうかを後回しにすることです。営業方法を先に決めるのは、手続きを進めやすくするためだけではなく、不要な設計変更や消防設備の追加費用を防ぐためでもあります。

民泊施設に向いている土地をどう見極めるか
群馬県で一棟貸し宿を計画する場合、景色のよい土地や観光地に近い土地が魅力的に見えます。ただし、宿泊施設の土地選びでは、眺望や価格だけで判断しないことが大切です。
まず確認するのは用途地域です。住宅宿泊事業として利用するのか、旅館・簡易宿所として利用するのかによって、建築できる地域が異なります。都市計画区域外であっても、接道、排水、造成、農地転用、自然公園法、土砂災害警戒区域などの確認が必要になることがあります。
特に郊外や山間部では、土地価格が安くても、次の工事に費用がかかる場合があります。
- 道路と敷地に高低差がある場合の造成・擁壁工事
- 上下水道がない場合の井戸・浄化槽・給水設備
- 電気や通信回線を敷地まで引き込む工事
- 積雪時にも利用できる進入路と駐車場の整備
- 軟弱地盤だった場合の地盤改良工事
- 崖や斜面に近い場合の安全対策
土地が500万円安くても、造成や給排水工事に1,000万円以上かかれば、事業全体では割高になります。現場では、土地の購入後に浄化槽の放流先が確保できないことが分かったり、冬季に工事車両が入れないことが判明したりするケースもあります。
また、群馬県では、学校や児童福祉施設の周辺について、住宅宿泊事業の実施を制限できる条例が設けられています。具体的な指定状況や営業可能な期間については、計画地ごとに確認が必要です。
土地の契約前に、建築会社と行政の両方へ相談することが、結果として最も大きなコスト対策になります。契約に進む場合も、宿泊施設としての建築や営業許可が得られないときに備え、停止条件などを不動産会社と検討しておくと安心です。
木造で新築する場合の建築費と総予算
木造の宿泊施設を新築するときの費用は、延床面積だけでは決まりません。宿泊人数、浴室の数、厨房設備、消防設備、立地条件、断熱性能、外構、家具・家電などによって大きく変わります。
2026年時点で事業計画を作成する場合、木造の小規模宿泊施設は、建物本体について坪90万円~140万円程度を初期検討の幅として考えることがあります。ただし、一般的な住宅と同じ坪単価を当てはめると、予算が不足しやすいため注意が必要です。
宿泊施設では、一般住宅よりも利用人数が多く、給湯能力、空調、換気、遮音、耐久性、消防設備に費用がかかる傾向があります。デザイン性の高い浴室やサウナ、大開口の窓、屋外デッキなどを設ける場合は、さらに予算を見ておく必要があります。
一棟貸し施設の予算イメージ
土地代を除いた初期予算の目安は、次のように考えられます。
- 延床25~35坪程度の一棟貸し施設:3,500万円~5,500万円程度
- 延床40~60坪程度のグループ向け施設:5,500万円~9,000万円程度
- 複数棟のコテージや共用棟を設ける計画:1億円以上
上記には、建物本体だけでなく、設計・申請、一定の外構、給排水、空調、消防設備などを見込んでいます。ただし、土地取得費、造成工事、地盤改良、温泉設備、家具・家電、カーテン、予約システム、開業広告費、借入費用などは別途必要になる場合があります。
見積書を見るときは、「本体工事がいくらか」だけでなく、宿泊者を受け入れられる状態にするまでの総額で比較します。建物価格が安く見えても、外構、家具、消防、給排水が別途であれば、最終的な支払額は大きくなります。
よくある失敗は、住宅会社の概算坪単価をそのまま事業計画へ入れ、後から業務用給湯器、複数台のエアコン、誘導灯、消火器、屋外照明、防犯カメラなどが追加になるケースです。初期段階では細かな仕様が決まっていなくても、宿泊用途に必要な工事を概算へ含めておく必要があります。
小規模な宿泊施設と木造の相性
一棟貸しや小規模な宿泊施設では、木造が合理的な選択になるケースがあります。特に平屋や2階建てで、極端に大きなスパンを必要としない計画では、一般に流通している木材や住宅系の施工技術を活用しやすいためです。
内装に梁や柱を見せれば、仕上げ材を増やしすぎずに空間の特徴をつくることもできます。木の質感は、家族旅行やグループ旅行で求められる落ち着いた雰囲気とも相性があります。
ただし、「木造なら必ず安い」とは限りません。大きな吹き抜け、全面ガラス、大開口、大型浴室、特殊な屋根形状を採用すると、梁や接合部の補強、耐火被覆、空調能力の増強が必要になり、構造体以外の費用が上がります。
現場では、写真映えを意識して窓を大きくしすぎた結果、夏の日射や冬の冷気に悩まされることがあります。宿泊者にとって室温の不満は口コミに直結しやすいため、デザインだけでなく、窓の方位、庇、断熱、空調計画まで一緒に考えます。
また、複数組を同時に受け入れる施設では、上下階や隣室の音が問題になります。木造でも床や壁の遮音対策はできますが、完成後の追加対策は難しく、費用もかかります。客室配置や水回りの位置を含めて、設計段階で音の伝わり方を検討することが大切です。
木造を選ぶ理由は、単純な建築単価ではなく、施設規模、空間の魅力、工期、断熱性、将来の改修まで含めて判断することにあります。
宿泊者数だけで間取りを決めない
「8人泊まれる建物にしたい」というご要望があっても、寝室に8人分のベッドを置けば計画が完成するわけではありません。宿泊者が同じ時間帯に入浴し、食事をし、洗面所を使うことを考える必要があります。
グループ向け施設では、トイレや洗面台が1カ所しかないと、朝の混雑が大きなストレスになります。一方、設備を増やしすぎると建築費だけでなく、清掃時間、給湯費、修繕費も増えていきます。
たとえば8人程度の宿泊を想定する場合は、次のような動きを図面上で確認します。
- 複数人が同時に調理できるキッチン幅があるか
- 冷蔵庫や食器棚を置いても通路が狭くならないか
- 浴室使用中でも別の洗面設備を使えるか
- 寝室とリビングの音を分けられるか
- 大型の荷物やスキー用品を置けるか
- 清掃道具、リネン、消耗品を保管できるか
- ごみを一時保管する場所を確保できるか
宿泊施設では、売上につながる客室やリビングを広くしたくなります。しかし、管理用収納を削りすぎると、毎回リネンを外部から運び込むことになり、運営コストが上がります。清掃スタッフが宿泊者と同じ動線しか使えない間取りも、チェックインと清掃が重なったときに不便です。
屋外デッキやバーベキュースペースを設ける場合は、近隣住宅への音や煙にも配慮します。建物を敷地境界から離す、屋外照明を近隣側へ向けない、利用時間を管理するなど、設計と運営ルールの両方で対策します。
間取りは最大宿泊人数だけでなく、清掃に何時間かかるか、1回の滞在でどれだけ光熱費がかかるか、近隣に迷惑をかけず運営できるかまで含めて決めることが重要です。

群馬県ならではの積雪・寒さ・インフラ対策
群馬県は、地域によって気候条件が大きく異なります。高崎・前橋などの平野部と、水上・片品・草津などの山間部では、積雪量、外気温、風の強さが違います。そのため、県内で同じ仕様の建物を建てればよいわけではありません。
積雪地域では、屋根の雪荷重を構造計算へ反映する必要があります。屋根から落ちた雪が玄関や駐車場をふさがないよう、落雪位置まで考えて建物を配置します。除雪した雪を置く場所がなければ、冬季の運営に支障が出ます。
寒冷地では、水道管や給湯配管の凍結防止も欠かせません。宿泊者がチェックアウトした後に暖房を完全に切る運営では、配管が凍結する可能性があります。凍結防止ヒーター、配管経路、給湯設備の設置場所、遠隔での温度管理などを計画します。
断熱性能を上げると初期費用は増えますが、宿泊施設は短時間で室温を整える必要があるため、断熱が不足すると大型の空調機が必要になります。毎月の光熱費も増え、結露によるカビや内装劣化につながることがあります。
山間部で特に注意したいのが、電気・水道・通信です。予約管理やスマートロックを導入しても、通信回線が不安定では遠隔運営ができません。井戸水を使う場合は、水量と水質の確認が必要です。浄化槽についても、宿泊人数に応じた規模や放流先を事前に検討します。
土地価格だけを見て山間部の敷地を購入し、後から電気の引き込み、井戸、浄化槽、除雪対応に費用がかかる例は珍しくありません。群馬県では建物の見積もりと同時に、冬季運営とインフラ整備の費用を確認することが大切です。
稼働率と宿泊単価から収支を考える
宿泊施設の事業計画では、建築費を考える前に、1泊当たりの料金と年間の販売可能日数を整理します。
住宅宿泊事業として年間180日まで営業する場合と、旅館業の許可を取得して通年営業する場合では、売上の上限が大きく変わります。たとえば、1泊5万5,000円の一棟貸し施設を住宅宿泊事業で運営し、販売可能日の60%が予約された場合、年間宿泊売上は単純計算で約594万円です。
一方、通年営業で365日のうち45%が稼働した場合は、約903万円になります。ただし、これは宿泊料金だけを掛けた売上であり、利益ではありません。
実際には、次の費用が発生します。
- 予約サイトへの手数料
- 清掃・リネン交換費
- 電気・ガス・水道・通信費
- 消耗品・アメニティ費
- 管理代行・緊急対応費
- 建物や設備の修繕費
- 保険料・税金
- 借入金の返済
- 広告・写真撮影・予約管理費
現場では、満室時の売上を基準に返済計画を組んでしまうケースがあります。しかし、平日、梅雨、冬季などの閑散期も含めて考えなければなりません。周辺施設の宿泊料金を見るときも、表示価格だけでなく、何人利用の価格なのか、清掃料金を含むのか、実際に予約が入っているかを確認します。
建築費を抑えるために施設を小さくしすぎると、宿泊単価を上げるための特徴がなくなることもあります。反対に、サウナや露天風呂を付けても、その設備による単価上昇が維持費を上回るとは限りません。
建てたい施設から売上を逆算するのではなく、狙う宿泊者、見込める料金、必要な客室数から建物規模を決めることが、無理のない事業計画につながります。
相談から開業までの進め方
群馬県で木造の宿泊施設を計画する場合、いきなり詳細な間取りを作る必要はありません。最初は、誰に、いくらで、年間何日利用してもらう施設なのかを整理するところから始めます。
一般的には、次の順序で検討すると手戻りを減らせます。
- 想定する宿泊者と宿泊単価を決める
- 住宅宿泊事業か旅館業か、営業方法を整理する
- 候補地の用途地域、接道、造成、インフラを調査する
- 保健所、建築行政窓口、消防署へ事前相談する
- 建物規模と概算予算を作成する
- 収支計画と資金調達方法を確認する
- 設計、各種申請、工事、開業準備を進める
建物の規模や許認可によって期間は異なりますが、土地探しから開業まで1年以上かかることもあります。雪の多い地域では、着工時期によって基礎工事や外構工事が進めにくくなるため、冬季をまたぐ工程にも注意が必要です。
開業希望日を先に決め、行政相談や融資審査の期間を短く見積もると、工事を急ぐことになり、追加費用が発生しやすくなります。特にゴールデンウィーク、夏休み、紅葉、スキーシーズンなどに開業を合わせたい場合は、余裕のあるスケジュールが必要です。
「大規模木造建築ぐんま」を運営するトウショウレックス株式会社では、群馬県内の土地情報を踏まえながら、宿泊施設の規模、木造化の可能性、建築費について検討できます。
まだ土地が決まっていない段階や、住宅宿泊事業と簡易宿所のどちらが適しているか分からない段階でも問題ありません。むしろ、土地購入や図面作成の前にご相談いただいた方が、建築できない土地を選んだり、予算を大きく超えたりするリスクを抑えられます。
群馬県で一棟貸し宿や小規模な宿泊施設をご検討の際は、建物だけでなく、土地・許認可・建築費・運営方法を一緒に整理してみてはいかがでしょうか。計画地の条件を確認しながら、無理のない事業の進め方をご提案いたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。








